家でできる運動として腕立て伏せを始めたのに、胸より先に肩が痛くなる。回数を減らしても、翌朝になると肩の前が重い——体験トレーニングで上半身の話になると、とてもよく伺う悩みです。
この記事では、痛む場所と痛む局面で、肩に起きていることが変わること、痛まない手の位置と下ろす深さの決め方、そして壁から戻す4段階をお伝えします。読み終えるころには、次の1セットで何を変えるかが決まります。
腕立てで肩が痛む仕組み
はじめに、腕立て伏せのあいだ肩の中で何が起きているかを整理させてください。ここが分かると、あとの表が読みやすくなります。
肩は浅い受け皿の関節
肩の関節は、腕の骨の丸い頭(上腕骨頭・じょうわんこっとう)が、肩甲骨の浅い受け皿に乗っている形です。ゴルフボールがティーに乗っている状態によく例えられます。
受け皿が浅いぶん、肩は大きく動けます。その代わり、骨の形だけでは安定しません。骨頭を受け皿に引きつけているのは、肩の奥にある4つの小さな筋肉(腱板・けんばん・肩の関節を内側から支える筋肉群)です。腕立て伏せは、この浅い関節に体重を乗せて押し返す運動です。
一番下で骨頭が前へ押される
体を床へ下ろしていくと、肘が後ろへ引かれ、腕の骨の頭は受け皿の中で前へ押し出されます。深く下ろすほど、その力は大きくなります。
肩の前には、力こぶの筋肉の腱(上腕二頭筋長頭腱・じょうわんにとうきんちょうとうけん)や関節を包む膜が通っています。一番下で骨頭が前へ出るたびに、ここが引き伸ばされます。「肩の前が痛い」という方の多くは、この一番下の位置で痛みが出ています。
原因は3つにまとまります
臨床で腕立て伏せの肩の痛みを見ていると、原因はおおむね次の3つに分かれます。
- 手の位置:手が肩より前にあり、肘が真横へ開いている
- 下ろす深さ:今の肩が受け止められる深さを超えて下ろしている
- 肩甲骨の動き:肩甲骨が止まったまま、腕だけで押している
一般的な解説の多くは、1つ目の「脇を開きすぎ」で話を終えます。ただ、手の位置を直しても痛む方は少なくありません。その場合は2つ目か3つ目が残っています。フォームのうち自分で直せる所と直せない所の境目は、筋トレのフォームで自分では見えない3か所で整理しています。
痛む場所と局面で分ける
ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。まず、指1本で痛む場所を指せるかどうか試してください。そのうえで、下ろす途中・一番下・押し上げ・一番上・翌日のどこで痛むかを思い出してください。
場所と局面の早見表
| 痛む場所 | 痛みやすい局面 | 起きやすいこと | 先に見る所 |
|---|---|---|---|
| 肩の前 | 一番下 | 骨頭が前へ押され、前を通る腱と膜が引き伸ばされる | 下ろす深さ |
| 肩の付け根(前から脇の上) | 下ろす途中〜一番下 | 力こぶの筋肉の腱が骨の溝でこすれる | 肘の開き |
| 肩の上・外側 | 押し上げ | 肩の屋根の骨と骨頭の間で腱が挟まる | 手の位置(前すぎ) |
| 肩の後ろ | 一番上・翌日 | 肩甲骨が動かず、肩の奥の筋肉が支えを肩代わりしている | 一番上での押し切り |
| 肩甲骨の内側 | 回数の後半 | 肩甲骨を肋骨に留める力が尽き、骨が浮いてくる | 回数とセット数 |
いちばん多いのは肩の前です。次が肩の上・外側です。肩の上は、肩の屋根にあたる骨(肩峰・けんぽう)と骨頭のすき間が狭くなる場所です。手が肩より頭側にあり、肘が真横へ開いた形で押し上げると、このすき間で腱が挟まりやすくなります。
肩の後ろや肩甲骨の内側の痛みは、関節そのものより肩甲骨の動きが足りないことのサインであることが多くあります。肩甲骨が外へ開いていたり、片側だけ浮いたりする仕組みは、肩甲骨に指が入らない理由と動かす3か所で解剖から説明しています。
場所が指せない痛みは別に扱います
肩全体がぼんやり重い、日によって場所が変わる、という痛みもあります。この場合は動作の問題より、量や睡眠、デスクワークの疲れが関わっていることが多くあります。首から肩にかけての張りが中心なら、肩こりの原因と解消法もあわせてご覧ください。
一方で、毎回同じ角度で、同じ一点が鋭く痛む場合は性質が違います。肩の中の同じ組織に繰り返し当たっている可能性があるためです。この場合は腕立て伏せを続けず、整形外科で確認してもらってください。
痛まない手の位置と深さ
場所と局面が分かったら、次は手の位置と深さを決め直します。どれも鏡かスマートフォンの動画があれば一人で確かめられます。
一番下で前腕を垂直にする
手の位置は、上の姿勢ではなく一番下の姿勢で決めます。体を下ろしきった位置で横から撮影し、肘から手首までの前腕が床に対して垂直に立っているかを見てください。
手首が肘より頭側にあれば、手が前すぎます。この形では押し上げるたびに肩の上のすき間が狭くなります。目安として、一番下で手のひらが胸の横、みぞおちに近い高さに来る位置が、多くの方にとって肩の負担が少ない位置です。
肘は真横ではなく斜め後ろへ
上から見て、肘が体から真横へ90度開いていると、肩の上と前に負担が集まります。体に沿わせて0度まで閉じると、今度は肘と手首がつらくなります。手首が先に痛む方は、腕立て伏せで手首が痛いときの手のつき方をあわせてご覧ください。
多くの方に合うのは、体から30〜45度ほど開いて、肘が斜め後ろを向く角度です。上から見ると、体と腕で矢印の形になります。手の指先を正面から少し外へ向けると、肘が自然にこの角度に収まりやすくなります。
深さはこぶし1つで決める
「胸が床につくまで下ろす」と習った方も多いと思います。ただ、肩の前が痛む時期に、毎回床まで下ろす必要はありません。
胸の下に、丸めたタオルか自分のこぶしを1つ置いてください。胸がそれに触れたら押し返す、という深さにします。これだけで、一番下で骨頭が前へ押し出される量は大きく減ります。痛みが出なくなったら、タオルを少しずつ薄くして深さを戻していきます。
理学療法士の視点|肩は肩甲骨の上に乗る関節
ここからは、臨床で上半身の運動を評価するときに実際に見ているものをお伝えします。
受け皿ごと動く必要があります
肩の受け皿は肩甲骨の一部です。腕を動かすとき、肩甲骨は肋骨の上をすべりながら受け皿の向きを変え、骨頭を追いかけています。腕だけが動いて受け皿が止まっていると、骨頭は受け皿の縁へ追いやられます。これが肩の前や上で何かが挟まる、こすれる、という状態の土台です。
ですから評価では、痛む肩そのものより先に、腕立て伏せの最中に肩甲骨が動いているかを見ます。下ろすときに左右の肩甲骨が背骨へ近づき、押し上げるときに外へ開いていく。この往復が出ているかどうかです。
一番上でもう一押し
押し上げる局面で肩甲骨を外へすべらせるのは、肋骨の横から肩甲骨の内側の縁につく筋肉(前鋸筋・ぜんきょきん・肩甲骨を肋骨に押しつけて前へ運ぶ筋肉)です。この筋肉は、腕を伸ばしきった後の最後の数センチでいちばん働きます。
多くの方は、肘が伸びたところで動作を止めています。当店ではそこから床をもう一押しして、背中が少し丸く持ち上がるところまで押し切ってもらいます。肩甲骨が肋骨に沿って外へ出ていく感覚が分かると、肩の後ろや肩甲骨の内側の痛みが出にくくなる方が多くいらっしゃいます。上の姿勢で肩甲骨が浮いて見える方、片側だけ浮く方は、ここが特に足りていません。
デスクワークの肩は前に出たまま
長時間のデスクワークのあとは、肩が前へ丸まり、肩甲骨が外へ開いたまま固まっていることがよくあります。この状態で腕立て伏せを始めると、スタートの時点で骨頭が受け皿の前寄りにあります。そこへ一番下の前へ押す力が加わるため、肩の前の痛みが出やすくなります。
始める前に、肩を一度すくめてから後ろへ回して下ろし、首を長く保つ姿勢をつくってください。肩が前に出た姿勢そのものを整える順番は猫背改善の5つの順番に、硬い場所の伸ばし方の選び方はストレッチで伸ばす場所を決める3つの質問にまとめました。道具で胸を開いても翌朝に戻ってしまう方は、ストレッチポールで変わらない3つの理由が参考になります。
こうした評価の違いは、理学療法士のいるジムと普通のジムの違いとトレーナーがセッション中に見ている5つのことで整理しています。
壁から戻す4段階
肩が痛むあいだも、押す運動をすべて止める必要はありません。考え方は「手をつく高さで、肩にかかる体重を調整する」です。手の位置が高いほど、肩に乗る体重は軽くなります。
4段階と次へ進む条件
| 段階 | やり方 | 次へ進む条件 |
|---|---|---|
| 1 壁 | 壁から一歩離れて立ち、胸の高さで手をつく | 10回×2セットで痛みなし/一番上で肩がすくまない |
| 2 台 | キッチン台や机の縁に手をつく | こぶし1つの深さまで痛みなし/翌朝も変わらない |
| 3 膝つき | 床に膝をつき、膝から頭まで一直線 | 一番上でもう一押しが左右同じにできる |
| 4 つま先 | 通常の腕立て伏せ | 同じ手の位置と深さを毎回再現できる |
どの段階でも、手の位置・肘の角度・一番上の押し切りは同じです。変えるのは手をつく高さだけにしてください。段階を上げた日に痛みが出たら、1つ前に戻ります。1〜2週間ごとに1段ずつ進めれば、順調なペースです。
回数より形をそろえる
早く元の回数に戻したい方ほど、段階4で回数を追いかけがちです。ですが、手の位置と深さが毎回ずれていると、痛みが出る形に回数が上乗せされるだけです。形がそろわなくなった回で、その日のセットは終わりにします。回数は、形がそろう範囲で少しずつ増やしてください。
同じ考え方は脚や腹筋の種目にも当てはまります。膝の場合はスクワットで膝が痛いときの原因と代わりの種目、腰の場合は腹筋で腰が痛いときの4つの原因で解説しています。
やめる日と受診する日
「少しでも痛んだら中止」とすると、肩に不安のある方はいつまでも運動を再開できません。量の判断は、運動中は10段階で3まで・翌朝で判定する目安を肩にもそのまま使えます。そのうえで、次のサインは別に扱ってください。
その日はやめるサイン
次のどれかが出た日は、その日の腕立て伏せを中止してください。
- 肩の一点に、刺すような鋭い痛みが出た
- 回数を重ねるほど、痛みが強くなってきた
- 押し上げる途中で、肩が引っかかって止まる感じがある
- 終わったあと、腕を横から上げると途中で痛む
- 翌朝、服を着るときや髪を洗うときに痛みが残っている
受診をすすめるサイン
当店は医療機関ではありませんので、診断や治療は行えません。次のような場合は、運動やセルフケアより先に整形外科へご相談ください。
- 安静にしていても痛む、夜に痛みで目が覚める
- 腕が上がらない、または上げようとしても力が入らない
- 首を動かすと、肩から腕へ痛みやしびれが走る
- 肩が腫れている、熱を持っている
- 転倒や腕をついた後から痛みが続いている
医療機関でのリハビリを終えたあとに運動を再開する場合の進め方は、病院のリハビリを終えた後の3つの選択肢にまとめています。手技と運動のどちらを先にするかで迷う場合は、整体とジムのどちらに通うべきかの判断軸が参考になります。週に何回通うかの決め方は通い放題の損益分岐と週何回通うべきかの考え方をご覧ください。
まとめ
腕立て伏せで肩が痛いとき、原因はおおむね手の位置・下ろす深さ・肩甲骨の動きの3つです。まず痛む場所と局面を確かめ、一番下で前腕が垂直に立つ位置に手を置き、肘は斜め後ろへ向けます。肩の前が痛む時期は、胸の下にこぶし1つ分を残して止めます。押し上げた最後には床をもう一押しし、肩甲骨を外へすべらせてください。痛むあいだは壁や台に手をついて、肩に乗る体重を減らして続けます。毎回同じ角度で鋭く痛む、夜に痛む、腕が上がらない場合は、運動を止めて受診してください。
武蔵浦和のジム・パーソナルジムLIMITED武蔵浦和店は、JR武蔵浦和駅から徒歩3分のジムです。さいたま市南区・中浦和・南浦和・北戸田・戸田市エリアから、デスクワークで肩が前に出やすい方や、家での筋トレを見直したい方が通われています。トレーナーは全員が医療系国家資格「理学療法士」を持ち、加えて全米エクササイズ&スポーツトレーナー、JATIトレーニング指導者、PHIピラティスインストラクターなどの資格を持つ者が在籍しています。通い放題プランではトレーニング・整体・ボクササイズを追加料金なしで選べるため、同じ担当者が手技と運動の配分を決められます。ウェアのレンタルとウォーターサーバーがあり、キッズスペースもございます。営業時間は8:00〜22:00です。
自分の肩がどの手の位置と深さなら痛まないのかを一度見てもらいたい方は、60分の体験トレーニング(5,000円・税込)で肩甲骨の動きと腕立て伏せのチェックを受けてみてください。ご予約は下のボタンのほか、公式LINEから24時間受け付けています。運動が初めての方も、まず壁に手をつくところから一緒に始めましょう。
よくある質問
腕立て伏せで肩が痛いときは、休んだほうがよいですか?
痛みが出た深さと形の腕立て伏せは、その日は中止してください。ただし、上半身の運動をすべて止める必要はないことが多くあります。壁や台に手をついて角度をゆるくする、下ろす深さを浅くする、といった調整で痛まずに続けられる方がほとんどです。目安は、運動中の痛みが10段階で3以下にとどまり、翌朝に運動前より悪くなっていないことです。安静にしていても痛む、夜に痛みで目が覚める、腕が上がらない、腕にしびれが広がる、という場合は運動を続けず、整形外科を受診してください。当店は医療機関ではありませんので、診断や治療は行えません。
腕立て伏せで肩がゴリゴリ鳴るのは問題ですか?
痛みを伴わない音だけであれば、過度に心配しなくてよいことが多くあります。肩甲骨が肋骨の上をすべる音や、腱が骨の出っ張りを越える音は、痛みのない方にも起こるためです。一方で、音と同時に痛みが出る、引っかかって腕が止まる、鳴った後に力が抜ける、という場合は性質が違います。この場合は腕立て伏せを中止し、整形外科で肩の中の状態を確認してもらってください。
腕立て伏せは毎日やってもよいですか?
痛みのない方が少ない回数で行うなら、毎日でも大きな問題にならないことが多くあります。ただし、肩に痛みが出ている時期は、回復の時間を挟むほうが安全です。目安として、限界近くまで行った日は1〜2日あけてください。翌朝に肩の前や上が重い、腕を上げると引っかかる感じが残る、という日は休みの日にします。回数を増やすより、手の位置と下ろす深さが毎回そろっているかのほうが、肩の負担には大きく影響します。
