肩甲骨に指を入れてみたけれど、まったく入らない。動画のとおりに動かしても、背中が張ったまま変わらない。施術を受けた日は軽いのに、数日で戻ってしまう——肩や背中の張りでご相談に来られる方から、よくうかがう話です。

この記事では、「はがす」という言葉が実際には何を指しているのか、指が入らない3つの理由、そして動かすべき3か所をお伝えします。読み終えるころには、自分の背中で何を確かめればよいかが決まります。

肩甲骨はがしとは何をしているのか

はじめに、言葉の整理をさせてください。ここを取り違えたまま続けている方が、とても多いためです。

はがすべき癒着はありません

肩甲骨は、背骨とも肋骨とも関節でつながっていません。骨どうしが直接つながっているのは、鎖骨との1か所(肩鎖関節)だけです。残りはすべて筋肉に吊られ、肋骨のカーブの上に乗っているだけの構造です。

この「筋肉を介して肋骨の上をすべる場所」を、解剖学では肩甲胸郭関節(けんこうきょうかくかんせつ・骨どうしが向き合っていない、関節のように働く部分)と呼びます。もともと接着していない構造ですので、はがすべき癒着が最初から存在するわけではありません

ですから「肩甲骨はがし」は、骨を引きはがす手技ではありません。肩甲骨のふちに指を入れて動かし、皮膚と筋膜のすべりを出し、張っている筋の緊張を一時的に下げていると考えるのが実際に近い説明です。

肩甲骨は肋骨の上をすべっている

肩甲骨は、上げる・下げる・外へ開く・内へ寄せる・上向きに回す・下向きに回す、という6方向に動きます。腕を上げるときは、このうち「上向きに回す」動き(上方回旋)が主役になります。

大事なのは、肩甲骨が動くための土台が肋骨と背骨だという点です。土台である胸まわりが丸まったまま固まっていると、肩甲骨だけを動かそうとしても可動域は出ません。猫背の姿勢でこれが起きやすい理由は、猫背を改善する5つの順番で詳しく整理しています。

では施術で何が変わるのか

受けた直後に腕が軽くなる感覚は、気のせいではありません。緊張していた筋のトーンが下がり、皮膚と筋膜のすべりが戻れば、同じ力で動かせる範囲は広がります。整体やマッサージの価値はここにあります。

ただし、変わっているのは「動きやすさ」であって「動かし方」ではありません。使い方が前と同じであれば、数日で元の張りに戻ります。手技と運動の役割の違いについては、整体とジムのどちらに通うべきかの判断軸で、通う目的別に整理しました。

指が入らない3つの理由

「肩甲骨に指が入らない=硬い」と説明されることがあります。ただ、実際に背中を触ってきた立場から申し上げると、この見方は成り立ちません。理由は3つあります。

理由1|肩甲骨が外へ開いている

指が入るのは、肩甲骨の内側のふち(内側縁)が胸郭から浮いている場合です。肩甲骨が背骨側に寄っていれば、内側縁は肋骨に押しつけられ、指の入る隙間はできません。

逆に、デスクワークで肩が前へ出た姿勢が続くと、肩甲骨は外へ開いて前に傾きます。この状態では内側縁が浮くため、指はむしろ入りやすくなります。指が入る人ほど背中の状態が良い、とは言えないということです。

理由2|肩が内側へ回っている

腕の骨が内側にねじれると(内旋)、肩甲骨は前へ傾きます。スマホを見る姿勢、長時間のタイピング、横向きで寝る癖などで起こります。巻き肩と呼ばれる形です。

このとき、指が入るかどうかは肩の角度ひとつで変わります。腕をだらりと下げたときは入らないのに、手を腰の後ろに回すと急に入る、という方は珍しくありません。同じ背中でも、測るときの腕の位置で結果が変わる指標を、硬さの基準にはできません。

理由3|そもそも入らなくてよい

肋骨の丸みには個人差があり、皮下の厚みにも差があります。どちらも関節の硬さとは関係がありません。次の表のように整理してください。

確かめ方分かること分からないこと
指が入るか内側縁が今この姿勢で浮いているか関節が硬いか、動きが良いか
腕が真上まで上がるか肩甲骨と肩が協調して動いているかどちらが足りないか(内訳)
壁に背中をつけて腕を上げる胸まわりの土台が使えているか左右差の原因

もうひとつ、見落とされやすい点があります。腕を前へ押し出したときに、片側の肩甲骨だけが羽のように大きく浮き上がる場合です。これは肩甲骨を胸郭に留める筋が働いていないサインで、浮くこと自体が問題になります。この場合に必要なのは、はがすことではなく留めることです。

ストレッチだけで戻る理由

肩甲骨まわりを伸ばした日は楽になるのに、数日で張りが戻る。これも非常に多いご相談です。

伸ばす側ではなく、支える側の問題

肩や首の上のほうが張るとき、張っている筋(僧帽筋の上のほう、肩甲挙筋)は、たいてい働きすぎている側です。そして働きすぎる理由は、本来その仕事を分担すべき筋が働いていないことにあります。

分担すべき相手は、前鋸筋(ぜんきょきん・肩甲骨を肋骨に留めて前へ送り出す、脇の下の筋肉)と、僧帽筋の下のほうです。この2つが働かないと、腕を上げる仕事が上のほうの筋に集中します。伸ばすだけでは、この分担は変わりません。

この「張っている場所と、原因のある場所が違う」という関係は、肩に限った話ではありません。伸ばす場所の決め方そのものはストレッチで伸ばす場所を決める3つの質問にまとめました。肩こりとして出ている場合の原因の切り分けは肩こりの原因と解消法をご覧ください。

もうひとつ、揉んだ直後だけ軽くなって戻る仕組みについては、揉んでも肩こりが戻ってしまう理由で別の角度から説明しています。

医療機関を受診すべきサイン

当店は医療機関ではありません。診断や治療は行えません。次のような場合は、運動やセルフケアより先に整形外科へご相談ください。

  • 夜、寝ているときに痛みで目が覚める
  • 腕や指にしびれがある、力が入りにくい
  • 腕を上げる途中の決まった角度で、毎回引っかかる・痛む
  • 片側の肩甲骨だけが明らかに羽のように浮き出ている
  • 首を動かすと、肩から腕にかけて痛みが走る

受診されている方は、禁止されている動作があればその内容をお持ちください。範囲の中でできることをご提案します。病院でのリハビリを終えた後に何をすればよいかは、病院のリハビリを終えた後の3つの選択肢で整理しています。

動かすべき3か所

肩甲骨そのものを剥がそうとするより、周囲の3か所を順に整えるほうが、変化は残りやすくなります。当店で順番を組むときの考え方です。

1か所目|鎖骨の下と胸の前

肩甲骨を前へ引っぱっている側です。ここが短いままだと、肩甲骨を後ろへ寄せる動きが物理的に止まります。まず前を開くのが順番として先になります。

ここで鍵になるのが、小胸筋(しょうきょうきん・鎖骨の下、大胸筋の奥にある小さな筋肉)です。肩甲骨の前側の出っぱりから肋骨へ向かっており、短くなると肩甲骨を前下方へ傾けます。胸を張ろうとして腰を反らせてしまう方が多いのですが、それでは前は開きません。腰で代わりをしてしまう仕組みは反り腰で腹筋より先に見る3か所で説明しています。

2か所目|脇の下と肩甲骨の下側

前鋸筋と僧帽筋の下のほうです。ここが肩甲骨を胸郭に留め、腕を上げるときに上向きへ回します。1か所目で前が開いても、ここが働かなければ肩甲骨は安定しません。

働かせるときのコツは、肩を上げないことです。動かし始めに肩が耳へ近づくなら、上のほうの筋が先に出ています。鏡では肩甲骨の裏側が見えないため、自分では判断が難しい部分でもあります。自分で確認できる範囲と、できない範囲の線引きは鏡や動画に映らない3か所にまとめました。

3か所目|背骨の胸の部分

土台にあたる胸椎(きょうつい・背骨のうち肋骨がついている12個)です。ここが丸まったまま固まっていると、肩甲骨がどれだけ緩んでも回る先がありません。

そして胸椎の動きは、呼吸と直結しています。息を吐ききれずに肋骨が開いたままだと、胸椎は反った位置で固まります。順番としては、呼吸で肋骨を下ろす、胸椎を動かす、肩甲骨を回す、という流れになります。

場所主な役割働かないときに起きること
鎖骨の下・胸の前肩甲骨が後ろへ動く余地をつくる肩甲骨が前へ傾き、巻き肩になる
脇の下・肩甲骨の下側肩甲骨を胸郭に留めて上向きに回す首と肩の上のほうが肩代わりして張る
胸椎(背骨の胸の部分)肩甲骨が回るための土台になる腕が真上まで上がらず、腰が反って代償する

理学療法士の視点|肩甲上腕リズム

ここからは、臨床で肩を評価するときに実際に見ているものをお伝えします。

腕が上がる180度の内訳

腕を横から真上まで上げると、およそ180度動きます。この180度は、肩の関節だけで作られているのではありません。肩の関節でおよそ120度、肩甲骨が上向きに回ることでおよそ60度、という分担になっています。おおまかに2対1の比率で、これを肩甲上腕リズムと呼びます。

つまり、肩甲骨が回らなければ、腕は3分の1ぶん上がらない計算になります。逆に言えば、「腕が上がらない」というご相談の原因が、肩ではなく肩甲骨にあることは珍しくありません。

動かないのは肩甲骨か、肩か

評価では、この内訳を切り分けます。手を肩甲骨に添えて腕を上げていただき、動き出しのタイミングを見ます。

  • 上げ始めから肩甲骨がすぐ動く場合:肩の関節の動きが足りず、肩甲骨が先に代わりをしています
  • 最後まで肩甲骨がほとんど回らない場合:留める筋と回す筋の働きが足りていません
  • 肩が耳へ近づいてから上がる場合:上のほうの筋が先に出ています

同じ「腕が上がらない」でも、必要な運動はこの3つでまったく変わります。ここを見ずに肩甲骨を剥がしても、内訳は変わりません。誰が何を見ているかという観点はトレーナーがセッション中に見ている5つのことでも取り上げました。

評価では左右差と呼吸も見ています

肩甲骨の位置には、ほぼ全員に左右差があります。利き手の側が下がり、外へ開いていることが多いためです。左右差そのものは異常ではありません。問題になるのは、差が大きく、かつ痛みや引っかかりを伴う場合です。

あわせて呼吸も見ます。息を吸ったときに肩が持ち上がる方は、首の筋を呼吸に使っています。この場合、肩甲骨まわりだけを動かしても、1日に2万回近い呼吸のたびに首の筋が働き続けます。回数で負けるため、呼吸のほうを先に変えます。理学療法士が担当するジムで何が変わるのかは、理学療法士のいるジムと普通のジムの違いをご覧ください。

効いているかの見分け方

最後に、続けるかどうかを判断する材料をお伝えします。

その場の軽さでは判断できません

施術やストレッチの直後は、ほぼ誰でも軽くなります。緊張が下がった直後の状態だからです。ここで判断すると、何を選んでも「効いた」ことになってしまいます。見るべきは、翌朝と、3日後です。

3つの確かめ方

  1. 腕の上がる高さ:壁に背中と腰をつけて立ち、腰を反らせずに腕を上げます。指先が壁につくところまで上がるかを、左右で比べます
  2. 張りの戻り方:受けた翌朝に張りが戻っているか。戻るなら、動かし方が変わっていません
  3. 楽になる場所:肩の上ではなく、脇の下や肩甲骨の下側に疲れが出ていれば、分担が変わり始めています

この3つを2週間ほど記録すると、自分に必要なのが手技なのか運動なのかが見えてきます。判断のつかない状態のまま回数だけ増やすと、費用と時間の負担が先に大きくなります。通う頻度の決め方は通い放題の損益分岐と週何回通うべきかの考え方、費用の見方はパーソナルジムの月額の目安と隠れコストが参考になります。

なお、肩や背中の張りは腰の状態と連動することがあります。背中側の張りが腰にも出ている方は腰痛の原因と対策を、体型づくりを並行したい方はリバウンドを繰り返さない5つの手順もあわせてご覧ください。産後の抱っこ姿勢で肩甲骨まわりが張る場合は、産後に体型を戻す順番と3つのゲートで開始時期の考え方を整理しています。女性の身体に固有の前提は女性のパーソナルジム選びの7つの基準にまとめました。評価のあるジムをどう見分けるかはジムの4タイプと選び方をご覧ください。

まとめ

肩甲骨は、もともと肋骨にくっついていません。ですから「はがす」べき癒着は、ふつう存在しません。指が入るかどうかは、肩甲骨の傾きと肩の回り具合、肋骨の形で決まるため、硬さの指標にはなりません。むしろ片側だけが大きく浮く場合は、留める力が足りていないサインです。見るべきは、腕を上げたときに肩甲骨が一緒に回っているかどうかです。動かす順番は、鎖骨の下と胸の前を開く、脇の下と肩甲骨の下側を働かせる、背骨の胸の部分を動かす。この3か所を順に整えると、上のほうの筋に集中していた仕事が分散していきます。

武蔵浦和のジム・パーソナルジムLIMITED武蔵浦和店は、JR武蔵浦和駅から徒歩3分のジムです。さいたま市南区・中浦和・南浦和・北戸田・戸田市エリアから、デスクワーク中心の方や運動が久しぶりの方が通われています。トレーナーは全員が医療系国家資格「理学療法士」を持ち、加えて全米エクササイズ&スポーツトレーナー、JATIトレーニング指導者、PHIピラティスインストラクターなどの資格を持つ者が在籍しています。通い放題プランではトレーニング・整体・ボクササイズを追加料金なしで選べるため、同じ担当者が手技と運動の配分を決められます。ウェアのレンタルとウォーターサーバーがあり、キッズスペースもございます。営業時間は8:00〜22:00です。

自分の肩甲骨がどこまで回っているかを一度測ってみたい方は、60分の体験トレーニング(5,000円・税込)で姿勢と動作のチェックを受けてみてください。ご予約は下のボタンのほか、公式LINEから24時間受け付けています。運動が初めての方も、まず呼吸と1か所目から一緒に始めましょう。

よくある質問

肩甲骨に指が入らないのは、硬い証拠なのでしょうか?

硬さの証拠とは言えません。指が入るかどうかは、肩甲骨の内側のふちが胸郭からどれだけ浮いているかで決まります。そして浮き方は、肩甲骨の傾き、肩の回り具合、肋骨の丸み、体脂肪の厚みによって変わります。つまり関節の硬さ以外の要素が多く混ざっています。実際、指が深く入る方の中には、肩甲骨を胸郭に留めておく前鋸筋の働きが弱く、腕を使うと肩甲骨のふちが浮いてくる方がいらっしゃいます。この場合、浮くことは良い状態ではありません。逆に、指がほとんど入らなくても腕がまっすぐ真上まで上がり、痛みも引っかかりもない方は多くいらっしゃいます。指が入るかどうかより、腕を上げたときに肩甲骨が一緒に回っているかどうかを見てください。

人にやってもらう肩甲骨はがしと、自分で動かすのはどちらがよいですか?

役割が違うため、どちらが上という関係ではありません。人の手で肩甲骨の内側に触れる施術は、皮膚や筋膜のすべりを出し、張っている筋の緊張を下げる働きがあります。受けた直後に腕が軽くなるのはこのためで、その効果は実在します。ただし、緊張が下がった状態は放っておくと元の使い方に戻ります。動かす順番や支える筋の働きは、受け身のままでは変わらないためです。ですので、施術で動きやすい状態をつくり、その日のうちに自分で動かして使い方を上書きする、という組み合わせが現実的です。当店は通い放題プランでトレーニングと整体を追加料金なしで選べるため、同じ担当者が両方を見ながら配分を決められます。

肩甲骨のあたりでバキバキと音が鳴ります。剥がれている音でしょうか?

剥がれている音ではありません。肩甲骨を動かしたときの音は、肩甲骨の裏側と肋骨の間にある筋や滑液包がこすれる音、腱が骨の出っぱりを乗り越える音などが主なものです。音が鳴ること自体は珍しくなく、痛みがなければ心配のいらないことがほとんどです。注意していただきたいのは、音と一緒に痛みが出る場合、特定の角度で毎回引っかかる場合、音が出るようになってから腕が上がりにくくなった場合です。これらは肩の中で組織が挟まっている可能性がありますので、運動を続ける前に整形外科へご相談ください。当店は医療機関ではありませんので、診断や治療は行えません。

関連記事